整形外科の視点から
マイクロサージャリーとは
杏林大学医学部形成外科
波利井清紀
写真1 マイクロサージャリーを行っている 手術風景
写真1 マイクロサージャリーを行っている
手術風景
 手術を行う際の1つの方法(手技)なのです。
 マイクロサージャリーは文字通り、マイクロ(微小)+サージャリー(外科)、すなわち微小外科のことです。通常の手術は肉眼で行います。しかし、私たちの体の中には肉眼では見えにくい細い血管やリンパ管や神経などが多く存在します(むしろ細い方が多いのです)。手術の際に、このような細いものをつなぎ合わせる必要がある場合に、手術用の顕微鏡を用いて1-2mm程度の細い血管やリンパ管の吻合、あるいは神経縫合を行います。
 例えば、直径約1mmの血管を縫合する場合、1本の血管を吻合するのに、髪の毛よりはるかに細い針糸を用いて8~10針縫ってつなぎます(写真2 マイクロサージャリーを用いて吻合した直径約1mmの血管)。細い末梢神経やリンパ管なども同じです。
 現在ではマイクロサージャリーは、形成外科だけでなく手術を行う他科の領域でも欠かすことの出来ない手術手技となっています。
 形成外科領域においては、顕微鏡下での血管吻合や神経縫合を応用した切断手指の再接着や組織移植による再建手術(遊離皮弁法、free flap)が有名です。また、整形外科領域でも切断手指の再接着や骨付き組織移植法などが行われています。
写真2 マイクロサージャリーを用いて吻合した直径 約1mmの血管
写真2 マイクロサージャリーを用いて吻合した直径
約1mmの血管
マイクロサージャリーによる組織移植術(遊離皮弁)
 次に、マイクロサージャリーによる組織(遊離皮弁移植術)移植術についてご説明いたします。
 マイクロサージャリーを使って移植する身体各部の血管柄付きの組織弁を、一般に遊離皮弁(ゆうりひべん)といいます。英語ではFree flap(フリーフラップ)です。この遊離皮弁移植術は、皮膚・皮下脂肪弁や筋肉・骨などに血管を付けた「生きた自家組織」を移植できるので、様々な欠損や変形の再建に用いられる代表的な形成外科手技となっています。
 例えば、顔面頬部に生じた悪性腫瘍(癌)を切除する場合、癌切除後には顔面に大きな欠損が生じることもあります。顔面の残った皮膚だけでは縫合できない場合には、自分の身体の皮膚を遊離皮弁移植して欠損を塞ぎます。この場合、移植皮膚の表面だけを縫合しても、皮膚への血行がなければ生着せずに壊死してしまいます。しかし、マイクロサージャリーを用いて、血管柄付遊離皮弁を自家移植し、うまく細い血管を縫合すれば生着します(図3 顔面に移植する遊離皮弁のシェーマ)。
図4 顔面神経麻痺に対する広背筋移植のシェーマ: 広背筋を移植して顔面神経麻痺で失われた 「笑い表情」を再建する手術
図4 顔面神経麻痺に対する広背筋移植の
シェーマ:広背筋を移植して顔面神経麻痺で
失われた「笑い表情」を再建する手術
図3 顔面に移植する遊離皮弁のシェーマ
図3 顔面に移植する遊離皮弁のシェーマ
 また、顔面神経麻痺などで筋肉が必要な場合や、下顎骨欠損など骨が必要な場合にも同時に移植が可能です。筋肉移植により、顔面神経麻痺で失われた「笑い表情」や麻痺により目が閉じられないなど、失われた機能を回復することが可能となりました(図4 顔面神経麻痺に対する広背筋移植のシェーマ)。


形成外科における代表的な再建
 現在では、身体の約40程度の組織が自家移植することができるようになりました。
 遊離皮弁法による再建の代表的なものには以下のものがあります。
図5 空腸移植による頚部食道再建の シェーマ
図5 空腸移植による頚部食道再建の
シェーマ
(1) 顔面・口腔・頸部(頭頸部)の悪性腫瘍(癌)切除後の再建(図5 空腸移植による頚部食道再建のシェーマ)
(2) 乳癌切除後の乳房再建
(3) 外傷により骨・筋肉・皮膚が大きく失われた場合の再建
(4) 顔面神経麻痺により片側の顔面が全く動かなくなった場合の再建
(5) 先天的、あるいはケガなどで手指が失われた場合の再建(足趾(あしゆび)移植)
(6) さまざまな原因による陥凹変形や瘢痕拘縮の再建
(7) 四肢悪性腫瘍(骨肉腫など)切除後の再建(四肢温存術)
 近年、マイクロサージャリーを用いた手術および再建術は、形成外科領域だけに限らず、整形外科はもちろんですが、脳神経外科や耳鼻咽喉科など多くの領域で行われています。
 ただし、マイクロサージャリーは必ず手術用顕微鏡を用いますので、設備が整っている施設で行われる必要があります。マイクロサージャリーでの吻合や縫合にも限界はありますので、いたずらに細いものを縫合するのではなく、必要なものを的確に見極める判断力と縫合する能力が必要とされます。そのため、細い血管や神経を縫合するマイクロサージャリーの技術を習得するために、医師にとっても日々の修練と良い教育施設が必要です。
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